昨年は台風の日本への上陸数は「0」でした。今年はほぼ平年並みのペースで台風が日本列島を襲っています。また、ここ数年の傾向をみると、10月にやってくる台風がわりと大きな被害をもたらしています。その一つ、2019年に東日本を襲った台風19号は、長時間の広範囲の雨により、千曲川の氾濫を引き起こし、気象庁が「令和元年東日本台風」と命名しました。

今回の台風16号は上陸は避けられたものの、伊豆諸島をはじめ、東日本の太平洋側で暴風と高波をもたらしました。この台風16号は9月23日に日本のはるか南、マリアナ諸島付近で発生、この時の中心気圧は1004hPa、最大風速は30メートルで、勢力の弱い台風でした。ところがその後急速に発達して、3日後の26日には中心気圧920hPa、最大風速は105メートルと、基準の中では最強の『猛烈な』台風となって北上することになったのです。

台風の勢力を決める大きな要素は海の温度です。台風16号が北上したコースの海水温は、気象庁の観測によるとだいたい30度くらいでした。台風は一般的に海水温が27度以上であれば、台風としての勢力を維持し、水温が高ければ高いほど発達します。暖かい海水をエネルギー源として、台風16号は最終的には関西国際空港が高潮により浸水するなど、大きな被害が出た2018年の21号並みまで発達したのです。

この台風16号は10月2日0時に、日本の東海上で温帯低気圧に変わったわけですが、台風が弱まる場合、「弱い熱帯低気圧に変わる」または「温帯低気圧に変わる」の2パターンがあります。台風は元々が熱帯低気圧なので、弱まった段階で普通の(勢力が台風ほど強くない)熱帯低気圧に変わるのは想像できると思います。

ではどんな時に温帯低気圧に変わるのでしょうか?

これは台風の周辺に前線ができるときです。台風は元々が熱帯の暖かく湿った空気の塊ですが、日本付近までやってくると台風の風の渦に冷たい空気が巻き込まれて、元々持っている暖かい空気と冷たい空気の間に境目ができて、これが前線になります。
(台風情報では温帯低気圧と言っていますが、これは天気図に描かれる普通の低気圧のことで「温帯低気圧」は「低気圧」の正式名称です。)

台風が弱まるときのパターンを二つご紹介しましたが、実は台風が弱まった後に注意しなければいけないのは、どちらかというと温帯低気圧に変わるパターンです。さてそれはなぜか?難しそうで、意外と簡単です。

先ほどお話ししたように、台風の大好物(エネルギー源)は暖かい海の「水」です。台風が熱帯の海で生まれて北上してくることから、これは想像できるでしょう。一方、温帯低気圧の大好物は冷たい「空気」と暖かい「空気」。それも両方がないと元気が出ません。熱帯低気圧に変わる場合は、もともと熱帯育ちの台風が日本付近にやってくると、そこは大好物の暖かい海水がない場所ですから、次第に元気をなくしていきます。一方、台風が温帯低気圧に変わる場合は、もともと持っている暖かい空気と日本付近の冷たい空気の両方が存在するために温帯低気圧はさらに元気になっていくのです。
もし台風が日本にやってくる前に温帯低気圧に変わった時には、今度は低気圧として発達(場合によっては台風よりも勢力の強い低気圧になります)することがありますので要注意です。

さて、台風の進路予想の精度がここにきて飛躍的に向上しているのをご存じでしょうか?最近の台風情報に描かれる予報円の大きさが以前に比べて小さくなっているのはそのためです。
24時間後の台風の中心の実際と予想との誤差を見ると、1980年代は大体200キロくらいありました。これが最新のデータでは予想誤差は74キロに縮まっています。ですので台風進路予想をしっかり使って、防災に役立ててください。

 

さらにこの10月1日、台風専門の総合研究機関「台風科学技術研究センター」が、全国で初めて横浜国大に開設されました。ここには産官学の垣根を越えて研究者らが所属し、新たな知見を集約・共有しながら防災・減災を目指します。構成メンバーには気象学や防災だけでなく、エネルギー科学、航空機や船舶開発の専門家も参加。航空機で台風の目に大量の氷を投下するなどして勢力を弱めるとともに、無人運航型の風力発電船で台風に吹き込む風をエネルギー源として利用する産学合同研究「タイフーンショット」計画に携わる人もいるそうです。
ポイントは今までの進路予想にとどまらず、台風を「制御」し、さらに台風のエネルギーを「利用する」。そんな未来を見据えた研究がいよいよ本格的に始まることになります。

温暖化が進むと海水温の上昇も進むため、台風の勢力は今後強まっていく予想です。精度の高い台風情報をうまく防災対策に役立ていただきたいのと同時に、台風の莫大なエネルギーを利用する試み、今後もこの動きに注目していきたいと思っています。