オーストラリアのデアビン市が世界で初めて発表した「気候非常事態宣言」。
2016年のことです。

「気候非常事態宣言」とは簡単に言うと、今、この地球の気候は危機的な『非常事態』であるという事を広く認識してもらい、この危機を打開する為に社会的動員に向けたアクションに繋げていくことを目的とした宣言です。

その後、宣言を出す国や自治体は欧米を中心に広がって、2020年2月現在、1400を超えています。
日本はというと、現在長野県、神奈川県を始め、2県3市2町1村の自治体が宣言を発表しているものの、その数は欧米の勢いほど増えているわけではありません。
世界的な気候危機問題に対する動きが加速する中、未だに石炭を使用する火力発電所建設の計画が進んでいたり、また私たちが目にする気候危機に関する情報も決して多くはないのが現状です。

目次

日本で初めて「気候非常事態宣言」を発表した長崎県壱岐市

博多港から高速船、長崎空港から空路で

そんな中、日本でまず最初に気候非常事態宣言を発表したのが、長崎県壱岐市であることを皆さんはご存知でしょうか?
どんな経緯で、またどんな想いから発表に至ったのか?

まずは現地に行くしかない、ということで週末を利用して壱岐島に旅立ったのがこの1月末のことでした。

壱岐島へのアクセス

空路で壱岐島へ
壱岐空港

壱岐島へのアクセスは、飛行機だと長崎空港から30分、船を使う場合は博多港から高速船で1時間、フェリーで2時間ほど、唐津東港からはフェリーで1時間40分。
大阪を出発したその日に壱岐市役所の担当者にインタビューする予定を入れていたこともあり、今回はアクセスの良い空路を選びました。
長崎空港からプロペラ機に乗り継いで、壱岐空港に到着したのが、午後4時25分でした。

壱岐市役所にて

SDG‘s未来課 篠崎さん

そこから壱岐市役所に向かい、SDG’s未来課の篠崎さんにお会いできた頃には、日が暮れ始めていました。
およそ1時間程、宣言を発表するに至った経緯などを伺いました。

壱岐市役所、翌日に撮影
壱岐市役所、翌日に撮影

さて、なぜ壱岐市が日本で最初に気候非常事態宣言を発表するに至ったのか?
最初のきっかけは2018年に国が壱岐市をSDG’s未来都市に選定したことでした。

SDGs未来都市とは、内閣府地方創生推進室が、SGDs達成に向けた優れた取組みを提案する都市として選定した自治体です。
「島」としては唯一ということもあり、市としても気候変動問題に対する意識が高まったそうです。
さらにその翌年、SDG’sに関する情報を国内外へ発信しようと連携している企業の集まり「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン」の研修会が壱岐市で開催され、そこでいま世界中で気候非常事態宣言を発表する国や自治体が増えつつあることを初めて知ることとなったのです。

ここ数年、壱岐島でも度々「50年に一度の大雨」を経験しており、幸い大きな災害を引き起こすまでには至らなかったものの、異常な気象をもたらす気候変動問題に関して、市としても真剣に取り組むべき、という流れから2019年9月25日、壱岐市議会において「気候非常事態宣言」が全会一致で可決されました。

壱岐島の自然

名勝「猿岩」

インタビューの翌日、壱岐島を取り巻く自然を取材しようと早朝から、時間の許す限り島内を観て回りました。
名勝「猿岩」は壱岐島誕生の神話による8本の柱のひとつである、高さ45mの海蝕崖の玄武岩。

 

島北部に位置する天ヶ原ビーチ、この日は季節風が強く海は荒れ模様

また島のあちこちに白砂のビーチが点在しており、中でも風光明媚なここ天ヶ原ビーチでは波乗り目的の再訪を心に誓ったのでした。

壱岐ソーラーパーク

出力は約2MW

島のほぼ真ん中にあるのは壱岐ソーラーパーク。
島には高い山もなく、日照時間や日射量も多い為、太陽光発電に適しています。

 

さらに北端には壱岐芦辺風力発電所の風車がそびえ立っていて、こちらも年平均風速が6m以上という島の特徴を活かして、約1000世帯分の発電量を有しています。
行政として再生可能エネルギーへの意識も高く、市民に対しての意識改革も積極的な姿勢も、SDGs未来都市に選定された理由のひとつだと思います。

勝本漁港

勝本漁港
「お食事処よしもと」スペシャル定食、大満足のボリュー ム!

昼食は島の北端、勝本漁港近くで新鮮な刺身にヌルッとした食感が初体験の海藻が入った味噌汁、そしてなぜかこの店の一番人気であるカツ丼。
この定食で空腹を満たして、ある人に会うために次に向かったのが島東部の芦辺という集落。

島東部の芦部

博多へのフェリー乗り場から程近いところで、その方はゲストハウスを経営されています。
職業は海女さん。
壱岐島の海女さんはまさにSDG’sそのものだと前日に市役所で伺ったので、これはお会いして話を聞かねば、ということでアポなし、ダメ元での訪問でした。

突然の訪問にも快く対応していただいたのが、海女になって7年目の大川香菜さん。
彼女が潜る海も最近変化が現れているそうです。ここ3年くらいで急激に海藻が少なくなり、海藻が減ったためにウニの実入りも悪くなったと嘆いていらっしゃいました。
海水温も7年前に比べたら高くなったそうです。

実は壱岐島の八幡地区の海女さんは30年くらい前からウエットスーツではなく、なんとレオタード姿で漁をしているというのです。
もともとは水中で動きやすいのと、レオタードだと伸縮がいいので、特にサザエ漁のときは桶に一回一回入れずに、レオタードの胸の中に入れておけるので便利だということで着るようになったそうです。

ですがレオタードでは、当然春先など海水温がまだ低いために寒いわけです。
ではなぜ壱岐島八幡地区の海女さんは今でもレオタードを愛用しているのでしょうか?
これは海女漁を将来に残すために、あえて保温効果の少ないレオタードを着ることによってウニやサザエなどの海の生き物を取り過ぎないようにしているのだそうです。
持続可能な海女漁を目指している、というわけです。

大川さんはこの海女という仕事に魅力を感じ、これからもこの独特な漁の仕方を守り続けたいと思うよりになりました。
海女漁の将来を考えたとき、気候変動や海洋汚染などで漁獲量が減っている中、なるべく海の資源を守りながら海女という仕事を続けようと、このスタイルにこだわっているそうです。

大川さんは今の思いをこのように伝えてくれました。
「生産者である私達が何か策を考え行動する必要があると思います。具体的に何ができるのかをこれから若い世代の海女さんと一緒に考えて、他の地域の取り組みも勉強していきたいと思っています。」

今回、実際に気候非常事態宣言を発表した自治体への初めての取材を通じて、最近の異常気象や環境破壊に対する、その土地ならではの想いや取り組みに接することができて、とても有意義でした。
地球環境を安定した理想的な状態に維持していくには、いろんな方面からの取り組みが必要ですし、今回の壱岐訪問は地元ならではの取り組みに接することができました。