日本には国立公園が全部で34あります。その中の一つ、中部山岳国立公園。面積は17万4千ヘクタールで新潟県、富山県、長野県、岐阜県と4つの県にまたがる、広大な大自然の宝庫です。そして、一番南に位置する特別保護地区が乗鞍岳を中心とするエリアです。

7月の終わりにここ乗鞍高原を訪れたときは、まだまだ日差しが強く、真夏の空気に包まれていました。そんな中、マイカーが乗り入れることができる最高地点、自然保護センターの駐車場には、多くのハイカー、観光客が標高2702mの畳平に向かうバス乗り場に長い列をつくっていました。この大きな駐車場の一角、観光センターの中にあるのが「GiFT NORiKURA Gelato & Cafe」。手作りのジェラート、乗鞍焙煎コーヒーなど乗鞍やアルプスの恵みがいただくことができます。

この小さなカフェに足を踏み入れると、今ここ乗鞍高原が、どんな方向に歩みを進めようとしているのかがよくわかります。「ゼロ・ウェイスト」「地産地消」「sustinable action」「Change!」。こんな言葉が眼に飛び込んできます。

乗鞍高原は、2021年3月に環境省から日本第1号のゼロカーボンパークに登録されました。脱炭素化を目指し、サステナブルな観光地の先駆けとなるべく、地元の方々やこの土地に魅せられて移り住んだ人々が日々、試行錯誤しながら取り組んでいます。

といっても全く威圧感はなく、登山者、観光客に対するウェルカムな空気は常に感じました。それはこの土地に興味を持って訪れる側の人たちもみんな自然が好きだし、地球に優しい取り組みを何の違和感もなく受け入れているからこその空気感なのかもしれません。そのように考えると、乗鞍高原のような国立公園が脱炭素化を目指し、それを発信する場所としてはうってつけではないでしょうか。

「GiFT NORiKURA Gelato & Cafe」を運営されているのが藤江祐馬さん。山が好きで気象会社からの転職、移住組です。藤江さんはカフェのほか、長期滞在型の温泉宿も営んでいます。ここに二泊したのですが、この宿にもエコな空気が漂います。

朝食はセルフサービスで、冷蔵庫に入ったキャンプに使う三段重ねの名札のついた丸いランチボックスを各自で温めます。ベーグルの段、ドレッシングで味付けされたハムと野菜の段、そして冷凍のミネストローネの素(?)にお湯を注ぐスープの段の三段重ねです。食べ終えたランチボックスは各自キッチンで洗って、食器乾燥用カゴへ。そして、食べ残しはコンポストへ。自家製野菜の肥料になります。全くもってゼロウェイストです。この宿には長期滞在のハイカーやワーケーションの人たちなど、さまざまの境遇の人が、環境への配慮を楽しみながら滞在している雰囲気がありました。

マイカー規制が行われいてる畳平周辺には、国の天然記念物で絶滅危惧種の雷鳥が生息しています。そして、温暖化が進んで、地球の平均気温が産業革命以降1.5度上がってしまうと、標高の高い場所でしか生えないハイマツが育たなくなり、その場所を住処とする雷鳥も絶滅の危機を迎えることになるんだそうです。自然豊かなここ乗鞍高原でも温暖化の影響で夏でもスキーができる範囲が狭まり、雷鳥が快適に暮らせる環境が失われようとしているのです。

藤井さんをはじめ、地元の人たち、またこの土地に魅せられて移住してきた人々によって、ゼロカーボンパーク第一号の乗鞍高原の自然が支えられています。人間が一度壊し始めてしまった環境は、やはり人間の手でしっかり管理をし、いい環境を維持することは極めて当たり前のことで、その考えの基づいて行動することに何の違和感はないはずです。それでも温暖化は進み、自然環境の悪化が続いているのが今の地球の姿です。