先月下旬に世界気象機関(WMO)から気候変動に関する報告書が発表されました。世界の気象観測データをまとめる機関の発表ですから、信頼性の高さは言うまでもありません。
冒頭の部分はこのような表現になっています。
「山頂から深海に至るまで、気候変動は2022年も世界中でその進行を続けました。干ばつ、洪水、熱波があらゆる大陸のコミュニティーに影響を与え、何十億ドルもの損失をもたらしました。南極の海氷域が史上最少にまで減少し、欧州の氷河のいくつかは、文字通りグラフに収まりきらないほどの勢いで融解しました。」
(State of the Global Climate in 2022;国連広報センターによる和訳)
温暖化によって、全世界の氷河は2021年10月から2022年10月の間に1.3メートルほど厚みが減ってしまい、スイスでは2001年から2022年の間に氷河の氷の量の3分の1が失われてしまいました。さらに、毎年夏でも標高の高いところには残雪が見られるのですが、昨年は最も高い観測場所でも雪が全て溶けてしまいました。これは史上初めてのことだそうです。
また7月と8月の記録的な雨は、パキスタンで大規模な洪水に引き起こし、1700人以上が死亡、3,300万人が影響を受け、約800万人が避難することになりました。総損害と経済的損失は300億米ドルと評価されたそうです。バングラデシュではもともと降水量が多い7月と8月に、それぞれ全国的に記録上、最も多くの雨が降り、この大雨でなんと国土の1/3が水没しました。
これら地球温暖化によるさまざまな過去に例のない現象が起きている中、温暖化の原因となる二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の3つの主要な温室効果ガスの濃度は記録的な高い値を示し、温暖化の勢いが収まる気配は全くありません。
産業革命以来、地球の平均気温はすでに1.1度上昇し、世界が目標としている1.5度の上昇まであと0.4度しかありません。このことについて、この報告書では世界の気温が2027年までにこの1.5度を上回ってしまう可能性が66%あると指摘しています。この予測が現実のものとなれば、温暖化を止めるタイムリミットはあとわずか4年です。
未来の地球を快適な状態に保とうという全世界の人々の目論見は、あと数年で破綻してしまう。このような予測が全世界の共通の認識であるにもかかわらず、現在は「温暖化のない、理想的な世界に向かう過渡期にあたる」として、化石燃料を燃やし続け、二酸化炭素の排出をもうしばらく続けようとしているのが今の社会です。
気候変動を止めるために様々な問題が存在していて、それぞれに対して効果のある手立てを早急にしていかなければいけないのと同時に、わかっているのに対策をスピードアップさせない社会の仕組みそのものが大きな問題です。
戦争のツケが酷いものになることを経験し、核兵器の恐ろしさをG7の各国首脳はHiroshimaで目の当たりにし、そして気候変動による大災害が毎年のように起きていても、進むべき方向に動いていかない社会。これが今の社会であることこそが大きな問題なのです。